空の境界用語集 TYPE−MOON ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)伽藍《が らん》の堂《どう》 |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)鮮花|曰《いわ》く、 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)[#改ページ] ------------------------------------------------------- [#改ページ] 空《から》の境界《きょうかい》用語集 あ行 蒼崎橙子【あおざき—とうこ】【人名】 見た目二十代後半の女性。物語の案内役で、部外者。工房・伽藍《が らん》の堂《どう》のオーナー。 本編に登場する魔術師の一人で、人形作りを生業《なりわい》としている。 人為的な二重人格者で、メガネをかける・はずすで人格をスウィッチする。 メガネをかけている時は客観的で酷薄《こくはく》、メガネをはずしていると主観的で人情家。どちらが作為的《さくい てき》でない蒼崎橙子なのか、本人にもよくわからないらしい。情が薄かろうと厚かろうと、根っこの部分はロマンチスト。新しもの好きで、興味を持ったものをいじり回してはしゃいだりする。スピード狂。 『空の境界』は彼女なくしては語れない話だが、彼女が主体になる事は決してない。 自分の名前が嫌いなクセに、オレンジ色の装飾品を一品、体のどこかにつける習性がある。 妹が一人いるらしいが、関係は最悪。 赤い革ジャン【あかいかわじゃん】【装飾】 式が好んで着用する上着。 彼女がこの上着を好む理由を、肝心の幹也だけが分かっていなかったりする。 赤い革ジャンなら何でもいいらしく、今着ているものがくたびれたら新しいものに代えるだけ、と式本人は言い張っている。 秋巳大輔【あきみ—だいすけ】【人名】 三十代前半の男性。黒桐幹也の従兄《い と こ》。刑事。 義弟である幹也を気に入っており、年の離れた気の合う友人のように接する。 ささやかな幸福を愛するタイプ。正義感は強いが、その信念に縛られる事はない。 ちょっとした事件のおり情報提供者として蒼崎橙子と知り合い、以後、叶《かな》わぬ恋にかまけている。報《むく》われない愛情だって楽しめるオトナな男。 浅上藤乃【あさがみ—ふじの】【人名】 十代後半の少女。接触する三人のうちの一人。先天的な超能力者。 礼園女学院の生徒。礼園の生徒はめったに外出を許されないが、定期的な診断の為、月に二回の割合で町に出ている。事件の原因の一つ。 温和で受け身な性格だが、一度たがが外れると自分では止まれないタイプ。ある感覚に乏《とぼ》しい為、常識を理解できていても実感できていない。生の実感がない式とは似て非なるもの。 単純な数値比べなら、物語中最高の性能。 事件後半、痛みで思考が麻痺《まひ》した彼女は、しばし幼年期に戻っている。 浅上藤乃は橋の上へ。懐かしい、夏の雨に打たれる為に。 アーネンエルベ【あーねんえるべ】【地名】 待ち合わせに使われる喫茶《きっさ 》店。ストロベリーパイが絶品だとか。 違う物語との唯一の接点。 たまに、外来の吸血鬼とか法衣姿のシスターとかがお茶を飲んでいたりする。 荒耶宗蓮【あらや—そうれん】【人名】 外見、四十代半ばの男性。魔術師。 苦悩が刻まれた貌と、魔術師にあるまじき強靭《きょうじん》な体が、対峙《たいじ 》した者に嘔吐《おうと 》感に似た重圧を与える。 魔術師としては平凡だが、『結界』作りに関しては屈指《くっし 》の冴えを見せる。 結界とは内と外を分けるもの。それ自体で完結した世界を作り上げる為には、まず自身を完成させなくてはならない。 特殊な才能を持たない荒耶は、歳月と信念を積み重ねる事で自己を完成させ、一流の結界師となった。 外と内とを隔《へだ》てるもの。『空の境界』は彼の物語でもある。 物語中最大の事件・矛盾螺旋《むじゅんら せん》を象徴する人物。 何があり得ないかと言うと、彼は学んでいた学問の名前も知らずに、その教えを極めていたようなものなのである。 間違いを知らないままでいられる偶然、当然の事実を他人から教えられなかった偶然。故に、その矛盾は、最後まで抱えるべき必然。 いしあたまな石頭【いしあたまないしあたま】【その他】 誤字にアラズ。 式はときおりこういった表現をする。橙子曰く、感覚だけで生きている証拠だとか。 色【いろ】【装飾】 原色。三原色による反応ではなく、固体が持つイメージカラー。 物語を埋める装飾として、色を暗示する人名が配置されている。 分かり辛いところで言うと、無色の式《しき》、透明の霧絵《きりえ 》。 エーテル塊【えーてるかい】【その他】 エーテルとは、魔術教会において第五架空要素と呼ばれるもの。四大の要素に溶け合い、形を成す為に必要な媒介《ばいかい》とされる。 それ単体ではカタチはなく、しかし、それがなくては魔術は成立しない要素。 本来、地水化風のいずれかをなすエーテルだが、不出来な術者によっては四大のいずれにもならず、成りそこないとして物質化する事がある。これをエーテル塊という。 エーテル塊にはいかなる使い道もない。ある意味無を作るようなもの。そう言うと『魔法』のようだが、エーテル塊はそも第一魔法の———— 臙条巴【えんじょう—ともえ】【人名】 十代後半の少年。フリーター。小川マンションの住人。家出少年。……イレギュラー。 小柄で女顔。黙っていれば美少年。攻撃的でこらえ性がなく、ケンカっ早い。 些細《さ さい》な間違いから式と知り合い、徐々に怪事に巻き込まれていく。 ———もっとも、歯車は始めから狂っていたのだが。 黄路美沙夜【おうじ—みさや】【人名】 十代後半の少女。妖精遣い。 礼園女学院の生徒で、黒桐鮮花《こくとうあざか 》の先輩にあたる。 昨年まで生徒会の会長を務めていた才女で、非の打ち所のないお嬢様である。 鮮花|曰《いわ》く、可愛らしい王女さまというより、威厳のあるお妃《きさき》様。 意思を持たない使い魔たちを統率する司令塔。複数の思考を同時に走らせるのは錬金術師の特性。 彼女の師である魔術師が、かのアトラスの院生だった為だろうか。 鮮花とは水と油だが、隠し持つ願望は似通《に かよ》っている。 小川マンション【おがわまんしょん】【地名】 矛盾螺旋の舞台。まわりくどい構造をした十階建てのマンション。設計者は蒼崎橙子。 太極図《たいきょくず》の伽藍《が らん》。固有結界を持たない荒耶が人工的に作り上げた、彼の心情風景の具現といえる。 結界名、奉納殿《ほうのうでん》六十四層。 [#改ページ] か行 「 」【———】【その他】 仮《かり》に読み方をつけるとしたら、から。 受け取り方は人それぞれ。端的に分かりやすくいうのなら、根源の渦。 が、根源の渦は根源の渦、という名前がある為、やはり「 」とは別物である。 これをどう台詞《せ り ふ》にしてもらうかがドラマCD時での悩みのタネだった。 空の境界式【からのきょうかいしき】【その他】 九八年、HP上で公開された『空の境界』の事。 大タイトルである空の境界は、荒耶宗蓮という人物の物語でもある。 その為、HP上では矛盾螺旋の段階で一応の幕とした。 空の境界という物語は矛盾螺旋で終わっている。 続く二編は両儀式と黒桐幹也の物語の幕となるもので、こちらは翌九九年夏にコピー誌として配布した。 伽藍の堂【がらんのどう】【地名】 蒼崎橙子が経営するよろず請け負い製作会社。一応人形作りがメインだが、橙子にとって面白ければ何でも安請け合いする。アニメも作るぞ。 伽藍の堂に用がない人間は無意識に避けて通る、という結界が張られている為、滅多《めった 》に人はやってこない。 外見はただの廃ビル。実態もただの廃ビル。 建築途中で放棄されたビルを買い取って事務所と言い張っている。 一階はただの廃墟。二階と三階は橙子の仕事場で、四階が事務所。幹也と式が出入りしているのは四階だけ。 起源【きげん】【その他】 始まりの因で発生した物事の方向性。αという存在をαたらしめる、核となる絶対命令の事。 例えば�禁忌�という起源を持つモノは人に生まれようと獣に生まれようと植物になり変わろうと、群れにおける道徳から外れた存在になってしまう。 輪廻転生《りんね てんせい》があろうがなかろうが、人間は発生した時の方向性に従って肉をつけ知恵をつけ、以前とは少しだけ違った人格になる、という考え。 起源を覚醒したモノは起源に飲み込まれる。たかだか百年程度の�人格�など、原初の始まりより生じた方向性に塗り潰されるだけだからだ。反面、起源に塗り潰された人間《にくたい》は強大な力を手に入れる事になる。 人間のルーツを探る荒耶宗蓮は。その過程で起源を覚醒させる術を学んだ。 もっとも、彼が起源を覚醒させたのは一人だけであるが。 玄霧皐月【くろぎり—さつき】 二十代半ばの男性。礼園《れいえん》女学院の教員。覚えやすいのに覚えにくい印象。スマイル。 鮮花と式が戸惑うほど黒桐幹也に似た人物。顔は似ていないが、まとった空気が似通っている。 明日(未来)がよく分からないので、昨日(過去)に一縷《いちる 》の希望を持った魔術師。 黄路美沙夜に兄と慕われるが、彼らが本当に兄妹であるかは不明。 荒事は不得手だが、相手を説得する事においては最高と言える。 稀有《けう》な才能を持っていたが、結局、その才能故に能力を発揮できなかった人物。 十分は長い。———人生は短い。 黒桐鮮花【こくとう—あざか】【人名】 十代後半の少女。礼園女学院の生徒。黒桐幹也の妹。橙子に弟子入り中の、魔術使いのたまご。 幹也に恋愛感情を持つも、どうせ幹也はずっとひとりものだろうから、と油断しているうちに式に幹也を持っていかれた悲劇のヒロイン。以後、式に対抗するため橙子に弟子入りする。 幹也と違って完璧な優等生。幹也に対する感情を隠して『よく出来た妹』を演じているが、式や橙子には筒抜けであるらしい。 狙った獲物は逃さない。羊の皮を被った狼を地で行く少女。一途《いちず 》で可憐でちょい歪んだ愛情は、ちょっとやそっとでは消え去らないだろう。 魔術師としての才能(魔術回路)はないが、先天的な属性として発火現象があった為、火付けの魔術を習っている。 まだ魔術の組み立てが未熟な為、戦闘時は橙子に作ってもらった火蜥蜴《ひ と か げ》の手袋を着用する。 物語に関わっているようで関わっていない微妙な立場。 黒桐幹也【こくとう—みきや】【人名】 十代後半の青年。伽藍の堂の社員。極めて普通のひと。物語の主役の一人。陽性。 『空の境界』全体に関わる人物だが、渦中に踏み込むのは一つの事件だけである。 温和で面倒見がよく、大抵の人に好かれる好人物。 ……なのだが、何の因果かまるっきり正反対の両儀式と知り合ってしまい、以後、式と末永くやっていく運命に。雪降る夜の一人歩きには気をつけましょう。 日常の象徴な為か、そういうモノに憧れる人たちに大人気。物語が終わった後も、式はヤキモキさせられる訳である。 一番恐ろしいものは意外な形で一番近くにある、という見本。 『月姫』という話の主人公は、彼と式の色合いを受け継いでいる。 コルネリウス・アルバ【こるねりうす—あるば】【人名】 魔術師。橙子の旧友。 時計等に組する中部組織、シュポンハイム修道院の時期院長と噂される青年。 年齢は五十に届くが、外見は二十代の美青年。 魔術師としての実力は一流なのだが、性格にやや難あり。 本編では登場しなかったが、使い魔は黒い猟犬。簡単に人を愛せないアルバは、簡単に愛する事の出来る生き物が大好きなのであった。 真っ赤なロングコートにシルクハットを被り、傍《かたわ》らに黒いドーベルマンを連れて街を闊歩《かっぽ 》する姿は、中々に主人公然としている。 [#改ページ] さ行 式の着物【式の着物】【装飾】 さりげなく高級品。パッと見なんのヘンテツもない着物だが、細かいところで手を加えられている。 どのヘンがオートクチュールかと言うと、着物なのにハイキックが打ててしまうあたりである。 余談ではあるが、式の初期コンセプトは�混ざらない和洋折衷《わ ようせっちゅう》�だった。 死の線【しのせん】【その他】 両儀式が視てしまう、常に流動するラクガキのような線。 線はありとあらゆる物にあり、刃物で切りつける事により、線が走っていた物体を『殺す』事が出来る。線には強度はないので、どのような物だろうと平等に殺す事が可能となる。 死の線は『物が切れやすい』線ではなく、存在の寿命という概念がカタチになったもの。 厳密に言えば、線をなぞって物を解体する、ではなく、寿命を切って物を殺している、という事になる。 物質的な破壊ではなく、存在的な消去と捉えると解りやすい。 式は生物なので、生物の死が視やすいようだ。これは同じ生物として、『生物の死』を容易《た やす》く理解できる為。鉱物、概念の死の線を視るには、彼女が鉱物になるか、脳をフル活動させて『想像』するしかない。 要は、人間に理解できない存在の終わり(線)は視えない、という事。 蒐集癖【しゅうしゅうへき】【その他】 持って生まれた性質といおうか悪癖といおうか、本編の登場人物には偏執的《へんしつてき》なコレクターが多い。 からっぽだから、何かカタチのあるもので空虚を埋めたいのだろうか。 呪文詠唱【じゅもんえいしょう【その他】 魔術を発動させるために必要となるもの。 一流派として安定した魔術を使用する際は、定められた形式通りに手順を踏まねばならず、その一端が呪文である。 手続きで言うのなら、申請、受理、審査、発行のうち、最初の申請である。 大きな基盤を持つ魔術行使に関しては約束事でしかないが、自己流の魔術行使の場合は自己暗示として効力の方が大きい。 魔術師の体には、魔術を成す為の魔術回路が作られている。 この魔術回路を効率よく起動・作動させる方法の一つとして、自らを作り変える『決り文句』である呪文が作られた。 呪文は世界に訴えるものではなく自身に訴えるもの。同じ魔術であれ、魔術師ごとに呪文詠唱が異なるのは術者の人間性の違いという事だ。 余談ではあるが、自身ではなく世界に訴えかける呪文は大呪文、大儀式の類《たぐい》であり、一個人での使用は不可能とされる。 白純里緒【しらずみ—りお】【人名】 二十歳の青年。黒桐幹也の高校時代の先輩。式とも多少面識がある。整った顔立ちをしていたが、大人しい性格のため目立つ事はなかった。接触する三人のうちの一人。 ある理由から卒業間近に学校を辞めてしまった。 荒耶宗蓮が用意した最初にして最後を飾るはずだった駒だが、彼の出番を待たずして魔術師は抑止力の前に敗れ去る。 司令塔を失いはしたが、それは白純里緒にとって幸運な事だった。目障りな荒耶が消えた事で、彼は己の欲望を叶える為だけに行動を開始する。 顔を式に似せ、服装も式と同じものにするが、髪だけが金なのは獅子《しし》をイメージしての事。 アニマ嗜好《し こう》は天性のものと思われる。或《ある》いは、自覚していなかった性同一性障害では。……となると、式に惹《ひ》かれたのは式にではなく識《シキ》にだったのかもしれない。 『空の境界式』という荒耶の物語から外れてしまったもの。本来なら黒幕の前に退場するべきだったもの。が、黒桐幹也と両儀式の物語を締めるには、殺人鬼である彼が残っていなくてはならなかったのだ。 硯木秋隆【すずりぎ—あきたか】【人名】 三十代前半の男性。寄り添う影のイメージ。両儀家の使用人。 式の教育係として両儀家に引き取られた人物。影に日向《ひ な た》に式をフォローする執事の鏡。 式の我が儘《まま》と世間知らずっぷりに振り回される仲間として、幹也とは仲がいい。 ちなみに、私服は全て黒のスーツ。幹也と気が合う筈《はず》である。 ストロベリーアイス【すとろべりーあいす】【その他】 式の数少ない嗜好《し こう》の一つにして、苦手なもの。 冷たい食べ物は嫌いなクセに、コンビニエンスストアに寄ると必ず買って来るらしい。 この件に関して幹也は「……もしや、弱点を克服するつもりなのだろうか……?」などと、素晴らしい鈍感ぶりを発揮している。 瀬尾静音【せお—しずね】【人名】 十代後半の少女。礼園女学院の生徒。黒桐鮮花のルームメイト。未来視。 おどおどした引っ込み思案の少女で、プロット段階で予備の話として組み込まれていた『未来福音《み らいふくいん》』の主役。 『空の境界』本編での活躍はなくなってしまったが、同じコンセプトのキャラクターが『月姫』の番外編で登場している。 『未来福音』は彼女が幹也と軽いお喋りをするだけの話。場所はアーネンエルベで、三十|頁《ページ》程度の閑話《かんわ 》として予定されていた。 時期は矛盾螺旋の前の話で、幹也は彼女から「今のままだと、近いうちに死んじゃうかもしれません」と忠告されている。矛盾螺旋において、幹也が臙条巴に返答した内容はまるっきり反対、幹也らしいウソなのだった。 [#改ページ] た行 太極【たいきょく】【その他】 古代中国で生まれた思想、陰陽《おんみょう》説を表す図。 万物の状態を概念的に捉《とら》えたもので、能動的・活動的であるものを陽(白)、その逆になるものを陰(黒)と分けている。 昼と夜、明と暗、雄と雌と相反するものを象徴しながら、影響しあい流れあう世界の縮図とも言える。 また、陽の中には一点の陰、陰の中には一点の陽があるが、これは陰陽の区別は絶対的なものでなく、明の中にも暗がある、という事を示している。 太極は始まりの一であるが、この二つに分かれた陰陽を両儀という。 余談ではあるが、本編における魔術師たちは中国の思想とは相容《あいい 》れない西洋魔術の術師である。 超能力【ちょうのうりょく】【その他】 異能。本来、人間という生き物を運営するに含まれない機能の事。俗に言う超常現象を引き起こす回線。 魔術と違い、先天的な才能が必要不可欠。異能の回線を持つ者は、息を吸うかの如く超常現象を引き起こす。本人たちにとってもそれが『出来て』当たり前のことなので、外部(一般常識)からの指摘で始めて自分が異常なのだと気がつく事になる。 本編では浅上藤乃が超能力者とされているが、彼女はある程度人為的な手が加えられている為、魔術と異能の中間に属する。 本来超能力は偶発的に発生するもので、一代限りの突然変異なのである。 直死の眼【ちょくしのめ】【その他】 式の持つ異能。魔眼と呼ばれる魔術行使と似た性質を持つが、分類的には超能力。 概念でしかない『存在の死』を視覚情報として捉える事が出来る。死は線となって存在の表面に浮き彫りにされ、その線を裂かれたモノは材質・性質問わずに『死』に至る。 二年間に亘《わた》る昏睡《こんすい》状態によって長く「 」に触れていた為、両儀式が持ってしまった力。もともと式という体に死の線を視る機能があり、事故によって覚醒しただけの話。 もっとも、直死の眼は『両儀式』という体が持つ機能の一端にすぎないのだが。 月姫【つきひめ】【その他】 奈須きのこがシナリオを担当したヴィジュアルノベルゲーム。 式と同じ直死の眼を持ってしまった少年の物語。 『空の境界』とは共通点も多く、両者は微妙にリンクしている。 同人作品として発表され、現在は製造が終了している。リメイク版の準備は着々と進められているとかいないとか……? ドラマCD【どらましーでぃー】【その他】 なんでも大昔に発売されたらしい。今となってはレアアイテム。色々と大人な事情があり、存在自体が殺されかけている。 ちなみに、ドラマ化されたのは『俯瞰風景《ふ かんふうけい》』。なんと言おうか、よりにもよって地味な話をドラマ化したものである。 声をあてていただいた声優の方々は皆ベテランで、当時の立場からすると考えられない豪華メンバーだった。 [#改ページ] は行 発火能力【はっかのうりょく】【その他】 スポンティニアス・コンバッション。人体発火現象と呼ばれる、原因不明の発火現象。 黒桐鮮花が得意とする魔術だが、魔術というより超能力に近い。超能力で言うのならパイロキネシス。 炎で対象を焼くのではなく、対象自体に発火してもらう、という攻撃方法。 人体発火現象には様々な説があるが、鮮花の発火能力は精神|昂揚《こうよう》により人体に電気を発生させる人体帯電説と、空気中に大量放出された電子を原因とする電磁波説を混ぜ合わせたもの。 発動の為の詠唱が単一かつ楽譜記号なのは、鮮花が魔術と戦闘を楽曲だと捉えている為。 俯瞰風景【ふかんふうけい】【その他】 第一話の章タイトル。時間軸上では九八年九月の話。 そもそもトンデモ伝記な『空の境界』だが、その中でもトップクラスに無茶な話。 HPに連載を開始する前に「一番初めに一番無茶をやって受け入れられれば、後は何をやってもOKじゃないか?」というコンセプトで書かれたらしい。 当時は博打《ばくち 》だと思ったようだが、今なら言える。そんなの物書きの常識だ。 巫条霧絵【ふじょう—きりえ】【人名】 二十代後半の女性。接触する三人のうちの一人。古い呪《まじな》い師の家系。白昼夢と浮遊。 病魔に蝕《むしば》まれ、病室で一生を過ごした女性。失明した事からより明確に外界を認識できるようになり、荒耶宗蓮によって自由になるもう一つの体を与えられた。 が、もとより目的のなかった彼女には行くあてはなく、ただ浮遊するにとどまり、何人もの被害者を生み出してしまった。 また、巫条は口寄せを生業とする一族で、両儀、浅神に並ぶ古い家柄。恐山のイタコは冥界を見る為視力を失うというが、彼女は病魔に視力を奪われる事でその力を開花させてしまったのだ。 [#改ページ] ま行 魔眼殺し【まがんごろし】【装飾】 魔眼の力を抑える事の出来る魔術品。 眼、という事もあり、大体はメガネとして作られる。橙子がかけているメガネも魔眼殺し。 『月姫』の主人公、遠野志貴《とおの し き 》は視えてしまう死に耐えられず、人づてで橙子謹製の魔眼殺しを譲ってもらい、なんとか生活していけるようになった。 魔眼殺しをつけずに暮らしている式がどれほど捨て鉢《ばち》……じゃなくて、達観した精神かを物語るエピソード。 ちなみに、橙子が巨額を投じて作った式用の魔眼殺しは、「なんでオレがおまえを喜ばせないといけないんだ」と式に突っ返された。 式がメガネを突っ返した理由は、礼園の制服の時と同じと思われる。 魔術【まじゅつ】【その他】 人為的に神秘・奇跡を再現する行為の総称。 門派ごとに違いはあるものの、基本的には�術者の体内、もしくは外界に満ちた魔力を変換�する機構。 各門派が取り仕切る基盤(システム)に従って術者が命令(コマンド)を送り、あらかじめ作られていた機能(プログラム)が実行される、というもの。 その、命令を送るのに必要な電流が魔力である。 魔術には万能のイメージがあるが、基本的には等価交換で神秘を起こす。 有から有を持ってくるのであって、無から有は作れない。出来る事を起こすのであって、出来ない事は起こせないという事だ。 が、その『無』、あり得ない事に挑むことが魔術という学問の本質である。大魔術、大儀式と呼ばれる大掛かりな魔術は「 」、魔法に至る為の挑戦に他ならない。 大タイトル・『空の境界』は、一人の魔術師が『無』に挑もうとした物語とも言える。 魔術回路【まじゅつかいろ】【その他】 魔術師が体内に持つ擬似《ぎじ》神経。 生命力を魔力に変換する為の路《みち》であり、基盤となる大魔術式に繋がる路でもある。 生まれながらに持ち得る数が決まっており、魔術師の家系は自分たちに手を加えて、魔術回路が一本でも多い跡継ぎを誕生させようとする。 古い家系の魔術師ほど強力なのはこの為。 魔術回路の多さ、血筋の品質で言うのなら、コルネリウス・アルバは紛《まぎ》れもなく一流の魔術師。 実は蒼崎橙子も荒耶宗蓮も、魔術回路はそう多くない。橙子が二十、荒耶が三十といったところ。 天才と思われがちな両者だが、橙子は血筋以外の才能で、荒耶はひたすら積み重ねた苦悩によって、他を圧倒する力を手に入れたのだろう。 魔術協会【まじゅつきょうかい】【その他】 国籍・ジャンルを問わず、魔術を学ぶ者たちによって作られた自衛団体。(無論、名目《めいもく》上ではある) 魔術を管理し、隠匿《いんとく》し、その発展を使命とする。 自らを脅《おびや》かすモノたち(教会、自分たち以外の魔術団体、禁忌に触れる人間を罰する怪異)から身を守る為に武力を持ち、魔術の更なる発展(衰退ともいう)の為、研究機関を持ち、魔術による犯罪を抑止する為の法律を敷く。 本部はイギリスのロンドンにあり�時計塔�の異名を持つ。 始まりは三大の部門に分かれていたらしく、エジプトはアトラス山の�巨人の穴倉�、北欧に根を張る複合教会�彷徨海�と呼ばれる原教会もあるが、時計塔が本部になってからは交流が廃《すた》れる一方だとか。 また中東圏の魔術基盤、大陸の魔術思想とは相容れず、お互いに不可侵を装《よそお》っている。 また、本編でアルバが語っていた通り、日本の魔術組織も協会には組していない。 魔法【まほう】【その他】 魔術とは違う神秘。魔術師たちの最終到達地点。 その時代で実現不可能な出来事を可能とするのが『魔法』であり、時間と資金をかければ実現できる�結果�は魔法とは呼ばれない。 現在、協会では五つの魔法が確認されている。 第一魔法、第二魔法と呼ばれるそれらは、教会でも一部の人間しか知らされていない。 もうこれ以上『魔法』は現れまいと言われているが、まだ実現できていない魔法を黒桐幹也はさらっと言い当てていたりする。 魔法使い【まほうつかい】【その他】 魔術ではない神秘、ありえない事を可能とする人間の俗称。 かつて文明が未熟だった頃、魔術師の大部分は魔法使いだった。 しかし文明の発展と共に不可能は可能となり、魔法は魔術として価値を落とすに至った。神秘は、現実の前に大敗を喫したのだ。 ———が、その中においてなお、いまだ人の手に余る奇跡は存在する。 その神秘を実現させた魔術師は“魔法”使いと呼ばれ、畏怖と尊敬、憧憬と嫉妬を一身に受ける事になる。 空の境界のの世界観において、魔法使いは五人いるとされる。 矛盾螺旋【矛盾螺旋】【章名】 第五話の章タイトル。『空の境界式』という大きな話の最後を飾るもの。 式が武装するのはこの話だけ。初期段階から、式が刀を持つのは一話のみ、と決められていたとか。 初期プロットのコンセプトを見ると、「全話中一番短い話。他の話が一時間なら、これは三十分のアニメのノリで」だそうだ。 当時、何があったのかは気になるところではある。 [#改ページ] や行 妖精【ようせい】【その他】 黄路美沙夜が使役《し えき》していた使い魔。 本来、妖精とは自然の触覚として捉えられる概念で、人に知覚できるものではない。 が、そういった人間の想像図を外殻にして生まれてしまう妖精も稀《まれ》に存在する。 黄路美沙夜が使役したモノは、森に棲むとされる一般的な妖精のイメージに、カタチを作れない下級の霊を憑依《ひょうい》させ、妖精に偽装したもの。 妖精としての殻を被ったそれらは、元になった妖精の能力の一部を行使できる。 妖精偽装は黄路美沙夜ではなく彼女の師が行ったと思われる。 余談ではあるが、本物の妖精は人間にも知覚できるほどの規模になると精霊と呼ばれる。某白い吸血鬼はこちらに属するとか。 更に余談ではあるが、妖精・精霊もその基盤は魔術では成しえない神秘である。 抑止力【よくしりょく】【その他】 ここで挙げているのは、集合無意識によって作られた安全装置の事。 人が願う破滅回避の祈りであるアラヤ、 星が思う生命延長の祈りであるガイア、 の二つに分けられる。 どちらも現在の世界の延長を目的とし、世界を滅ぼす要因が発生した瞬間に出現、この要因を抹消する。 無意識である為、発生しても誰の目にもとまらず、誰にも意識される事はない。 抑止力はカタチのない力の渦で、抹消すべき対象に合わせて規模を変えて出現する。絶対に勝利できるよう、対象を上回る数値で現れるのだ。 たいていは抑止力によって後押しされた『一般人』が滅びの要因を排除し、結果として『英雄』として扱われる。 アラヤ側の抑止力によって英雄になった人間は、その死後はアラヤに組み込まれるというが、その真偽は定かではない。 カウンターガーディアンとも呼ばれる。カウンターであるところがミソ。決して自分からは行動できず、起きた現象に対してのみ発動する。 [#改ページ] ら行 リーズバイフェ【りーずばいふぇ】【人名】 礼園女学院の院長。年齢不詳。 生粋のクリスチャンで、元気な頃はありあまる信仰心から過激な慈善活動をしていたとか。 院長室にはヴァイオリンを思わせるような盾が飾ってあるらしい。 本来この用語集に載るほど重要な役どころではないのだが、他作品で登場しているので拾い上げた。 両儀式【りょうぎ—しき】【人名】 十代後半の少女。物語の主役の一人。陰性。人を殺せない殺人鬼。 男のような乱暴な口調で、一人称はオレ。冷めた性格で、万事がどうでもいいように振る舞う。 十六歳まで和服しか着てこなかったが、高校で出会った同級生のちょっとした台詞から皮のジャンパーを購入。以後、冬は着物の上に革ジャンを羽織《はお》る、という妙な服装になった。 服装に拘《こだわ》っているように見えるが、実は本人何も考えていない。 好きなものを着るだけという考えで、その結果として『いつも着物』『履物《はきもの》は編み上げブーツかゲタ』『……気に食わないけど赤い革ジャン』という格好になっている。 ぶっきらぼうで薄情《はくじょう》で容赦《ようしゃ》がないが、時折びっくりするほど少女らしい反応をする。幹也曰く、動物に例えるのならウサギだとか。 人為的に二重人格者を生み出す両儀家の次女として生まれ、多人格の素質を認められ、兄を差し置いて両儀家の跡取りとなった。 幼い頃から自分が異常だと知っていた為、極度の人間嫌い&自分嫌い。それ故に冷めた性格になってしまったのだが、心のどこかで人並みの幸福を夢見ていた。 ……その夢の具現に出会ってしまった事から、彼女の運命は大きく変動していく。 『識』という男性人格を持っていたが、事故によって失われた。その代償か事故の後遺症か、以後、死の線が視えてしまう体質になってしまった。 昏睡から目覚めた後は生の実感がなく、人を殺す事で生の実感を得ようと躍起《やっき 》になるが、色々な偶然とか善意の妨害とかで上手くいったためしがない。 不確かな生の実感を抱きながら、今日も今日として橙子の事務所に通いつめるアンニュイ少女。 余談ではあるが、式の対人感情は中々に動物的。 好き嫌いに関係なく、まず一緒にいていい人間と一緒にいたくない人間とに分かれるのだとか。 一緒にいていい人間なら嫌いだろうと付き合っていくらしく、橙子は嫌い、鮮花は好き、というカテゴリーらしい。 幹也はと言うと、本人曰く「知らない」だそうで。 両儀識【りょうぎ—しき】【人名】 両儀式のもう一つの人格。失われたもの。殺人鬼。 『両儀式』という人間の中で�否定�を受け持つ人格で、少年のような口調と身振りをする。 二重人格というが、式と識は解離《かいり 》性同一障害ではない。お互い、行動における優先度が違うだけの話なのである。 両儀式の破壊衝動を受け持つ識だが、生粋《きっすい》の殺人鬼という訳ではない。むしろ自らの衝動を嫌っていた識は、自分から式の裏側に徹していた。 が、その関係も黒桐幹也の出現によって変わってしまい、両儀式が事故にあった際、式の身代わりとして消滅した。 男性である識がいなくなったのに式が男口調である理由は、『殺人考察(後)』で語られている。 礼園女学院【れいえんじょがくいん】【地名】 黒桐幹也の妹、黒桐鮮花が通う学校。 ミッション系のお嬢様学院で、全寮制の無菌室。 もともとはイギリスにある神学校の姉妹校なのだが、最近は礼園を手本にした女学院が出来たらしい。出資者は浅上藤乃のお父さんだとか。 講談社ノベルズ「空の境界」限定愛蔵版「Special Pnmphlet」所収